【編曲について】
ピアソラとイタリアの偉大なヴァイオリニスト、アッカルドは尊敬と友情で結ばれていました。「Milonga en Re」はアッカルドのためにピアソラが特別に書いた作品です。オリジナルの哀愁漂う音価の長いヴァイオリンの音色も、見事にピアノで再現できるような編曲に仕上がっています。一番の聴きどころは、再現部に現れる音階の下行。静謐を堪えるミロンガを、重音の刃となった音階が一気に切り裂くかのようなアレンジは鳥肌ものです。
【作品について】
ヴァイオリン界のレジェンド、アッカルドとピアソラの出会いは1969年7月。アッカルドが南米コンサートツァーのためブエノスアイレスを訪れた折に案内されたクラブ、ミケランジェロでのことだった。お互いの活躍を知ってはいたが二人が会うのはその時が初めてだった。ピアソラの生演奏に驚嘆し感動したアッカルドと、彼のコンサートに行ったことのあるピアソラは、夜中3時まで音楽を熱く語り合ったそうだ。アッカルドはツァー最後となるコロン劇場でのコンサートにピアソラを招待した。ピアソラはアッカルドにこう言った。I’ll write something for you.数日後、招待を受けたコンサートへ赴いたピアソラは、休憩時間にアッカルドの楽屋を訪ねた。ピアソラは約束通り作品を贈った。“Milonga en Re” for violin and pianoはこうして誕生した。ピアソラが楽屋を出るや否や、アッカルドはピアソラから受け取ったばかりの楽譜を伴奏ピアニストに見せた。アッカルドが2部のステージに戻りプログラムを終え、聴衆がアンコールを求めたとき、アッカルドは特別な感情をこめて曲目を発表した。「ピアソラの二調のミロンガを演奏します」それは大成功だった。誰もピアソラが会場にいたとは思ってもいなかったのだから。アッカルドのためにピアソラが書いた楽譜を、聴衆はピアソラと同じ時、場所で最初に聴けたのだから。終演後にアッカルドの楽屋を訪れたピアソラは、目に涙を浮かべて感謝の気持ちをアッカルドに伝えたのだった。